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僕の気楽飛歩日記

戦中派老人の赤裸々な日記から

弾丸フェリー

 20日前のことだった。大阪―別府航路を就航しているフェリーさんふらわーでは往復1万円で乗ることのできる「弾丸フェリー」があることを知った。これは大阪港を夜出発して翌朝に別府港に着き、その日の夜行便で大阪に帰ってくるというものだ。

別府では1日しかないが地獄めぐりや市内観光ぐらいはできる。

「行きたいな」

 僕が女房に言った。それがすべての始まりだった。ウォーキングループ10人に連絡すると8人が集まった。

「何とも決まるのが早いな、まるで若者の旅行だ」

 グループの息子さんが感心したらしい。平均年齢74歳の高齢者には似つかわしくない旅かもしれない。でも、休憩を十分にとりゆっくり行けばなんとかなるだろう。

 早速予約だ。

 二等船室でメザシのように並んで寝るのは嫌だから、ランクアップして女性陣7人は4人部屋を2つ確保した、これなら徹夜で騒いでも他の客に迷惑はかけないし、気兼ねがないから楽しい。男1人の僕は更にランクアップして個室を取った。それでも女性陣より2000円高いだけだ。

 

3月11日(土)

 夕方16時半、家を出発して18時前にフェリー乗り場へ着いた。早速乗船手続きを済ませて乗船開始時刻を待った。

 電話では乗船開始時刻は出航1時間前だと言っていたが、レストランの開始時間18時30分から乗船を始めた。

「荷物を置いたらすぐにレストランに集合やで」

 と、皆を急がせていたので1番客になった。

 窓際に席を取り和食バイキングで皿いっぱいの料理を食べ、飲み放題のジュースやコーヒーを飲んでワイワイガヤガヤと騒ぎ9時前まで楽しんだ。レストランの席が9割程度しか客はいないので長い時間居ても気兼ねすることもない。

「本船はまもなく明石海峡大橋を通過します」との船内放送があった。

「せっかくの船旅だ見に行こう」

 連れだって席を立った。

 船内では動いていることさえ忘れるほど動揺は感じなかったが、デッキに通じるドアを開けると強い風が襲ってきた。

「おー寒む」

 腕を組みながらデッキに踏み出した。

 海峡大橋はもうすぐだ。照明は上部ロープだけ点灯し橋全体は見渡せない、電気代の節約だろう。

 真下から見上げる橋は壮大だ、「すごいな」としか言葉にならない。

 対岸のサービスエリアの光が大きく見えていた。

 船はバシャーバシャーと海面を掻き分け白波を立てて進んでいる。

 解散すると僕は個室に入りテレビを点けたが興味のあるものはやっていないので、風呂に入り就寝の態勢をとってベッドに横になった。

   初めてドアを開けたとき「なんと狭い部屋だ」と思ったが、ベッドに寝転んでみると思ったより広い、これなら快適な一夜を過ごせそうだ。

  僕にとっては体を横たえるスペースさえあれば事足りる、目を瞑ってしまえば広さなんて関係ない。個室に入るのは見栄、贅沢からではない、加齢により夜中に何回もトイレへ行かなければならないからである、大部屋ではその都度他人に迷惑をかけることになる。

 機関の音が響き振動が体に伝わってくるが船はほとんど揺れない、これなら船酔いの心配もなさそうだ、瀬戸内海のありがたさが身に沁みる。

 

3月12日(日)

 すばらしい天気だ、楽しいウォーキングが楽しめそうだ。

 今回の旅を計画しているとき、ネットから打ち出した資料の中に無料のバス一日乗車券があるのを女房が見つけゲットしているので効率よく周ることができそうだ。

 フェリー乗り場のコインロッカーに荷物を預け身軽になって、バス停で待っていると「どこへ行くのか」と青年が聞いてきた。彼もフェリーから降りてきた客である。地元の人のようだ。「地獄めぐり」僕が応えると「このバスがいい」と丁度入ってきたバスに押しやられた。

 旅行前、亀の井バスの事務所に電話して「26番に乗って下さい」と教えてもらっていたのとは違うバスだった。

 計画ではフェリー乗り場の別府国際港から血の池地獄と竜巻地獄を先に見たあとバスに乗って地獄めぐりの中心地鉄輪(かんなわ)地区へ移動するつもりでいたが、鉄輪へ先に着いてしまった。

「ま、いいか」

 海地獄、鬼石坊主地獄、かまど地獄、鬼山地獄、白池地獄を徒歩でめぐり、バスで血の池地獄と竜巻地獄へ移動、見物のあと再びバスで鉄輪へ帰って昼食場所を探せばいい。

 坊主地獄で「昔、この地区にあったお寺の床下から噴火して寺ごとお坊さんが亡くなったから坊主地獄と言う」とグループ仲間に説明していると団体を連れたガイドがやってきた。その説明にお坊さんと寺が吹っ飛んだという説明はせず「お坊さんの頭に似ているから」と言っていた。いいかげんなことを言っていると思われるのもしゃくなので、「そうだろ」と女房の顔を見ると「私もそう聞いた」と助け船をだした。中学3年の修学旅行で来たときには確かにバスガイドが言っていたことである。後日、ネットで調べると、近年になってこの辺りは噴気がいたるところにでている湿地帯で、寺があったことに疑問がでているということであった。

 竜巻地獄も6分間隔で噴出し勢いもあったが、今では20分間隔になりずいぶん弱くなっていた。やがては噴出しなくなるのであろうか。

 天気もよく気持ちいい散策だ。

 それにしても外国人が多い、中国語や韓国語が大声で飛び交っている。肩をすぼめ静かに観光しているのが日本人だ。

「昼食は名物の地獄蒸し料理を食べたい」というのが計画段階からの思いである。鉄輪地獄蒸し工房へ行くと大勢の人でごった返していて90分待ちだった。

「それでは時間が無駄だ困る」と店内にあった観光案内所の女性に別の店を聞くと、2,3分のところにある「縁間(えんま)」という店を紹介してくれた。こちらは客も少なく店も新しくきれいで足湯まで付いていた。待つ必要もなく僕らは大喜びで地獄蒸し料理を食べ大満足だ。

「こんないい店があるなら90分待ちの客をこちらに送り込めばいいのに」

 そう思ったが観光協会の女性も工房の中にいるのに他店を積極的に紹介するわけにはいかない、聞かれた人にだけ教えるのだろう。

 工房の前に帰ると相変わらず大勢の人が庭で待っていた。

 昼食の後は別府駅前までバスで移動して買い物と温泉入浴だ。

 バスを降りると探すまでもなく温泉が見つかった。「駅前温泉」という大正建築の趣ある温泉だ。僕らは高齢者ばかりで病気にかかっている女性も居る。「できれば入浴の後、畳の上で横になって休憩できる場所が欲しい」と番台の女性に聞くと、すぐ裏手にある地区の公民館を開けてくれた。10畳ほどの小さく古い部屋であったが、僕らにはありがたい。温泉に入り畳の上で身体を休めた。

 1時間ほど休んだあと、礼を言って会館を出て駅構内でみやげを買った。

 駅前のバス停からフェリー乗り場のある別府国際港ビルまで帰って乗船手続きを終えた。乗船開始時間まで1時間待ちになったが高齢者にはこれでいい。

 今日もレストランは1番客だ。窓際に席を取り食事をしながら外を見るとまん丸い月が地平線の上に出ていた。

「あれは月?」

 とメンバーに聞かれ、「いや太陽だ、うす雲に光がさえぎられて輝きを失っている」と僕。

 しばらくして沈まないことに気づいた。

「月だった、ごめんごめん」

 謝った。

 昨日より客が多く、バイキング料理を集めるのに行列ができている。多くは外国人の団体だ。

「窓から見えるこの別府湾には江戸時代に沈没した大きな島があったんやで、秀吉の伏見城天守閣が崩壊した地震と同じとき、1夜にして1000人ほどの住人が牛馬もろとも消滅したらしい」

 話をしようとしたが誰も興味を示さなかったので口をつぐんだ。

 その島は瓜生島と呼ばれ、戦国時代には南蛮船の港町として栄えていたが、慶長大地震のとき大津波が襲来して現在の大分、別府とその周辺の村は大きな災害を被った。津波が引いた後瓜生島は跡形もなく消え失せていたという。

 離岸したらしいので窓の外を見ると遠くの景色は動いていない、窓ガラスに頭を付けて舷側を見下ろすと白波をけって進んでいた。

 今夜は2017ワールドジャパンボールクラシックで侍ジャパンがオランダと対戦する。

 早々に女性陣と別れて部屋に帰った。

 オランダ選手はパワーを活かして力強い戦いを展開している、どう見てもオランダの方が強い、負ける試合は見たくないとスイッチを切って眠りについた。

 船は心地よい振動をもって航行している。

♫波の背の背に ゆられてゆれて 月の潮路のかえり船♫(田端義男)

 ふと、ナツメロを思い出したが、もはや消え去った歌だ。

 機関の振動はあるものの波の動揺はほとんど感じない。

 朝、テレビを点けると侍ジャパンは大変な死闘を制したことが分かった。

最近の僕は手に汗を握る試合はよう視ない、すぐ切ってしまう。

そして後悔している。

 目が覚めたときから喉に痛みがあった。往路でもそうだが暖房が効いて寒さは感じなかったが乾燥しすぎて寝苦しい夜だった。夜中に水で濡らしたタオルを顔に被せたりしたがあまり効果はなかった。

  レストランの近くで濡れマスクを売っていたのを思い出したが、もうすぐ旅は終わりである。

  夜中に2度ほどグラリと動揺があった、きっとどこかの海峡を通過しているときに大型船とすれちがったのだろう。

 6時30分大阪港に着岸した。

 今回の旅費総額25770円、安上がりの旅ばかり行っている。

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